それでは、企業理念をベースにした問いかけについて、少し具体的にイメージしていきたいと思います。

■ 会社の使命にチームがどのように関わっているか

みなさんの会社の理念はどのような構造になっていますか?標準的な企業理念(Corporate Philosophy)では、最初にその会社の存在意義が書かれていると思います。タイトルは、使命(ミッション)というのが多いと思いますが、目的とか、あるいはジョンソン&ジョンソンの「クレド」のように、ステークホルダごとに分散して書かれているケースもあるかもしれません。

ひとつ目のテーマは、その会社の使命(存在意義)に対して、自分たちのチームがどのように関わっているのかということの確認です。

ここで素材として、『資生堂グループ企業理念』を使わせていただきましょう。先頭にきているのが、やはり Our Mission です。
https://www.shiseidogroup.jp/company/principle/

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Our Mission
私たちは、多くの人々との出会いを通じて、
新しく深みのある価値を発見し、
美しい生活文化を創造します

ネット上で見ると、三行の分かち書き、センターそろえになっているので、ここでもそのように表記してみました。こうしてみると、ミッションのコア(核)が「美しい生活文化を創造します」にあることがわかりやすくなります。

こうしたミッションのコア、もしくは大前提となるコンセプトは、その意味するところについては自明であり、了解事項として扱われ、意外と咀嚼される機会が少ないのではないでしょうか。これは、資生堂のみなさんが現実にそうしているといっているわけではなく、一般的な話しです。

■ メンバー一人ひとりにとっての「美しさ」

そこでこうした文言を “motto hanging on the wall” 日本語でいえば「額縁に入った言葉」にとどめないで、「生きた言葉」にすることをゴールとします。最終的にはグループの使命を果たすために、そのチームはどのような役割を果たすべきか、ということを考えるところまでもっていきたいというイメージです。

最初の問いかけは、会社が標榜する「美しさ」と、チームのメンバーにとっての「美しさ」の距離を縮めることを目標とします。距離を縮めるというか、わたしの感じでは「同じ土壌の延長上にある」ということに気づくというイメージですが、まあいいです。

そこで、チームのメンバー個人一人ひとりにとっての「美しさ」はどのようなものか、一人ひとりに問いかけます。問いかけ方はいろいろ考えられますが、たとえば次のようなものが考えられます。

● あなたにとってのBeauty Moment(美しさを感じる瞬間)について教えてください。
● あなたの考える美しさを一枚の絵で表すとしたら?
● あなたの考える美しさをレゴ・ブロックで表現してみてください。

ひとつ目の問いに、みなさんならどう答えるでしょうか?芸術作品に感動した体験を述べる人もいれば、何気ない自然の移り変わりに言及する人もいるでしょう。人と人が接する瞬間をあげる人もいるかもしれません。ことほどに「美しさ」は多様です。

こうした問いの効果としては、次のような気づきを生むことが考えられます。会社が標榜している美しさ(コンセプトとしての)の背後には、このような●多様な美の沃野が広がっているということ、それがひとつ。そしてたぶん、わたしたちの仕事は、会社が標榜するビジネス上の限定的な美しさを広めることではなく、その美しさをきっかけに●お客さまを豊かな美の世界にいざなうことだ、ということに気づいてもらうことがもうひとつ。

別の言い方をすると、わたしたちは美を売るビジネスパーソンである前に、美を感受する個人であったということを思い出してもらうことです。会社が社会に提供する価値と、わたしたち個人が大切にする価値は地続きであるということを実感してもらうこと、と言い換えてもいいでしょう。

同時にそれは、同じチームの他のメンバーもそうした個人であるということに気づく機会でもあります。そうしたプロセスは、自ずと他のメンバーをリスペクトする気持ちを引き起こし、チームビルディングにもつながっていきます。

このようにして、会社の標榜する理念を、メンバーにとって生きた言葉にすることがウェイ・マネジメントの第一歩です。

 このブログは、毎週火曜日+αでアップをしています。コメント欄、もしくは下記のアドレスまで、ぜひご意見や質問をお寄せください。

下平博文
Philosophy Driven Organization Network 主催
shimodaira.hirofumi@PDONetwork.com





# by pdoneteork | 2019-02-12 10:00 | Comments(0)

引き続き、リーダーシップと企業理念(Corporate Philosophy)のテーマで考えたいと思います。

■ ピーターの法則

組織のなかで、選抜され、昇進するということは、それまでの自分の仕事ぶりが評価されたのだから、自分のやり方は正しかったのだという自己肯定感が生まれるのは自然なことだと思います。いっぽうで、昇進にともなう階層研修のような場では、特にスタッフから組織を率いるリーダーになったときには、心構えや物事の発想(マインドセット)を大きく変えなければいけない。強い言葉では、●変身(トランスフォーメーション)が必要だ、という話しが出るのも常だと思います。

これについては「技術的問題と適応課題」というフレームがあります。●技術的問題とは、技術や経験で解決できる問題。●適応課題とは、技術や経験だけでは解決できず、「当の本人が変化しなければ前に進まない」課題です。リーダーになるとは、従来の価値観や仕事のやり方の一部を手放し、新しい能力を獲得しなければならないという意味では、明らかに適応課題です。

とはいえ、「変われ」といわれている本人が、自分たちは「OK」だと思っているので、変身については他人事のようにしか聞こえません。これ自体矛盾したシチュエーションといえるでしょう。そして、リーダーになることを技術的問題として処理してしまおうとします。

その結果組織に起きるのが「有能な人材は出世して無能な管理職の地位に落ち着く」という●ピーターの法則の実現です。

人は基本的には変われない。変わらなければ大きなリーダーになれない。そんなところから、「ひと皮むけた」リーダーになるためには、「修羅場の経験が必要だ」とか、野蛮なことを言う人たちも出てくるわけですが。

■ 内省(リフレクション)

もし人が変わることができるとしたら、いちばん無理がないのは●内省(リフレクション)を通じてではないでしょうか。内省とは、自らに問いかけることです。たとえば、ドラッカーは「経営者におくる5つの質問」として、次のような項目を立てています。

● われわれのミッションは何か?   What is our mission? 
● われわれの顧客は誰か?      Who is our customer?
● 顧客にとっての価値は何か?    What does the customer value?
● われわれにとっての成果は何か?  What are our results?
● われわれの計画は何か?      What is our plan?

5つめは別として、これはぜんぶ企業理念(Corporate Philosophy)に書いてあることではありませんか?もちろん答えではなく、同じく質問として。あるいは、考えるヒントとして。

これまでにこのブログでお話しをしてきたように、企業理念(Corporate Philosophy)にあるのは、基本的に普遍的なことばかりです。ですからドラッカーがピックアップするような基本的な項目を落としているとは考えにくいのです。各社における理念の個性とは、普遍的な考え方のなかで特になにを大切に考えるのかという優先順位づけと、その表現の仕方に過ぎません。

内省といいつつ、わたしがお勧めしたいのは……リーダーがひとりで考えるのではなく、理念をベースにチームのメンバーと大いに議論してみるといいと思います。そのときのポイントは、リーダーの役割は決して最後に正しい答えを出すことではないということです。そうではなくて、メンバーの考えを引き出すファシリテーターに徹するのです。

企業理念にあらためて向き合って、そこからメンバーにどのような議論をしてもらったらいいのか考える。そのことは、リーダーとしての変身へ一歩踏み出すよいきっかけになると思います。無理が少ないアプローチです。

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下平博文
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# by pdoneteork | 2019-02-05 10:00 | Comments(0)

引き続き、リーダーシップと企業理念(Corporate Philosophy)のテーマで考えたいと思います。

■ リーダーの日々は、意思決定の積み重ね

あらためて整理すると、これまでの経営理念の研究では、組織のメンバーを統合する機能には

● バックボーン機能
● 一体感醸成機能

のふたつがあるとされています。

バックボーン機能とは、「経営理念が会社のバックボーン(背骨)にあることで、従業員のベクトルがそろう、言いかえれば、ぶれない軸を共有することによって、会社全体として意思決定や行動のぶれが小さくなる」と説明されています。
●高尾義明(2016)「経営理念の浸透・共有による組織・社員への影響」『企業と人材』2016年8月号,8‐13頁

これまで紹介してきた年に一度のワークショップのような取り組みは、バックボーンとしての理念をあらためてメンバー間で確認し、共有する機会ととらえることができるでしょう。

いっぽうビジネスというのは、とりわけリーダーの日常は、意思決定の繰り返し、積み重ねであるといってよいでしょう。ひとつの方法として、そうした意思決定のなぜそこに至ったのかという考え方を説明するときの拠りどころとして、理念を活用するという道筋があると思います。前々回で紹介した「使えそうなものは何でも使う」と言っていた海外子会社のCEOの言葉にもありました。

もちろん毎回、毎回理念を持ち出す必要はないのですが、節目となる意思決定の機会や、メンバーのモチベーションを高めたいときに有効なのではないでしょうか。

■ Why からはじめよ

しかし、リーダーのみなさんには、判断のベースにある考え方、もっと具体的には「目的や背景」に言及する習慣はあるでしょうか?その点については、次のようなことを思います。

職場に他の部署から人が異動してきたり、新人が配属されてしばらくたって仕事がわかってきたな、できるようになったなと感じるのはどのようなときでしょうか。それは、なにを(What)するのか伝えたときに、いちいちどのように(How)をいわなくても自分で判断できるようになったときではないでしょうか。このように普通の職場では、少ないコミュニケーションで仕事がまわることが重宝されます。それはそれで自然なことだと思います。

しかし、こうした職場でずっと仕事をしていると、Why つまり仕事の目的や背景を考える習慣がなくなっていきます。

最近ではWhyの大切さをいう人が多くなりましたが、やはり嚆矢はサイモン・シネックの有名なスピーチというべきでしょう。その主張に、もちろん異論はありません。TEDで人気が出たということですから、程度の差こそあれどこの職場であっても、つまり日本企業に限らずWhyが不足しがちだということだと思います。

●サイモン シネックatTED 「優れたリーダーはどうやって行動を促すか

とはいえ、仕事の「目的と背景」を説明するスキルというか発想は、リーダーにとって最も重要なものだと思います。国内で察しのよいメンバーに囲まれて仕事をしているうちはいいのですが、そのままで海外に出ると苦労をするということがあるのではないでしょうか。

海外では、毎回同じことを言わないといけない、何度同じことを言ってもわからない、と嘆いていた人を知っていますが、それは周囲がいちばん聞きたがっている「目的や背景」に言及していない可能性があります。

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# by pdoneteork | 2019-01-29 10:00 | Comments(0)

前回は、年に一度企業理念(Corporate Philosophy)の下に集まることで、職場の取り組みがレベルアップするというリーダーの言葉を紹介しました。このケースでは、そのために特別なプログラムを用意したとか、このリーダーが(もちろん敬愛するに足る人柄でしたが)スーパーマンだったとかいうわけでもありません。

■ 会社は私を大切にしてくれている

これはまた違う部署でのワークショップをオブザーブしたときに、終わったあと参加したあるメンバーが「会社が私のことを大事にしてくれているのがわかった」というのを聞いて、とても印象に残ったことがあります。

組織開発に関連した資料を見ていると、よく出てくるのが氷山モデルです。わたしもイラストを使って説明をすることがあります。水面から上に出ているのは、数値や結果など目で見えるもの。水面下が組織の文化や風土、プロセスなど、直接見ることのできない要素です。

実感レベルでいうと、水面下の目に見えない世界を軽んじて表面のことだけを見ていると、組織は痩せてくるし、個人も疲れてきます。理念に言及するということは、その組織は見える世界だけではなく、目に見えない世界も尊重しているというシグナルになるのではないでしょうか。それが伝わったということが、「私のことを大事にしてくれている」という言葉の背景ではなかったかと思います。

年に一度でいいので、同じ職場のチームとして見えない世界まで降りていく。リーダーが理念の共有・浸透に取り組むことの意味合いは、ひとつにはそのようなところにあるのかもしれません。

■ リーダーの評価項目として

こうしたリーダーの取り組みを、どう評価したらよいでしょうか。この点について高尾先生の次のようなコメントが示唆的です。

〈(日本企業において)理念浸透の人事評価項目への導入は増加しつつある。その場合には、個々人における浸透そのものを評価の対象にするのではなく、管理職を対象にして、部下への浸透をどの程度促進したのから評価されることが多い〉
●高尾義明(2016)「経営理念の浸透・共有による組織・社員への影響」『企業と人材』2016年8月号,8‐13頁

つまり理念に関わる評価は、●社員全員を対象に、理念への共感・理解・行動といった軸で浸透度を評価するというよりも、●リーダーを対象に、それぞれの職場において、メンバーの理念への浸透や共有を促進する活動をどの程度したのかを評価するケースが多いという指摘です。

こうしたアプローチであれば、たとえば人事評定のバランススコアカードに、ある役職以上のリーダーを対象として「組織における理念の浸透・共有の促進」という項目を明記するといったことが考えられます。

ウェイ・マネジメントにおいては、理念と人事評価制度とどのようにリンクさせるのかというのは、実は大きなテーマになりうると考えます。しかしながら、いまのところこの領域は未開拓というか、へんな言い方をすると未成熟という感じがしています。今回はここまでにしておきます。いつか、あらためて考える機会があれば。

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下平博文
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# by pdoneteork | 2019-01-22 10:00 | Comments(0)

花王ウェイの事務局をしていたときに、ひとりのリーダー(部門長)からこのようなメールをもらったことがあります。

〈花王ウェイのワークショップの目的を難しく考える必要はない。「花王ウェイを1年に1回見る」ことと、「部内コミュニケーション(知恵の結集に繋がる環境づくり)」の機会にさえなれば、それだけでもメンバーにとって十分に意味がある。実施後は、部門の一体感が強まり連携が良くなるとともに、メンバーの業務への取組み姿勢が明らかにレベルアップする〉

■ 理念を経営の資源ととらえる

当時、わたしたちが推進していたのが、花王ウェイワークショップという職場単位のプログラムです。標準的なテキストは事務局のほうで用意しましたが、それをどうアレンジするか、そして実施するかしないかまでの判断もふくめて、各職場のイニシアチブを尊重するという方針で進めました。したがって、実施の状況は、職場ごとにかなりのまだら模様でした。そのなかで、このリーダーは最も熱心に取り組んだ一人でした。

ここで前回に引き続き、高尾先生の言葉を引用しましょう。

〈多様性があたり前になっている協働の場においては、従業員が活用できるある種の資源として、経営理念をとらえ直すことができる。これまで経営理念は、経営者をはじめとした組織成員が守るべき倫理・規範と理解されることが多かった。しかしこれからは、それと同時に、組織成員が仕事の場で活用し得る資源の1つともいえるだろう〉
●高尾義明(2016)「経営理念の浸透・共有による組織・社員への影響」『企業と人材』2016年8月号,8‐13頁

このメールを寄せてくれたリーダーは、自身の組織運営の資源として理念を活用したといえるのではないでしょうか。ここに述べられているように、企業理念(Corporate Philosophy)を「資源」としてとらえるという視点が極めて重要だと思います。

■ 理念に基づいたリーダーシップ

わたしがそのことに気づいたのは次のような機会でした。理念の浸透・共有活動の初期のころ、国内では活動の目的の理解がなかなか進まないいっぽう、海外の会社では前向きに導入をしてくれていました。ある海外子会社のCEOは、その理由を「使えるものはなんでも使う」と話してくれたのです。

本社から海外の子会社に行くと、経営資源の圧倒的な薄さに驚く。ぎりぎりのリソースで会社をまわしていくために、使えそうなものはなんでも使う。理念は、特に現地の人材とのコミュニケーションとマネジメントにほんとうに役に立った。それまで、数字の話ししかできなかったのが、物事の考え方から話しができるようになった。そのCEOが話してくれたのは、そのようなことでした。

前回紹介したように、●職場のリーダーが理念の浸透・共有の鍵を握る、のですが、浸透・共有を目的とするのではなく、むしろ

● マネジメントのひとつの資源(リソース)として職場のリーダーに理念を活用してもらう

そのことで、

● よい組織風土をつくり、ビジネスのサクセスにつなげる

活動を継続するなかで、そうした活動の新しいアプローチがみえてきました。それが、

● Leadership based on the Kao Way

というコンセプトです。それは、まさに今回紹介した花王のひとりのリーダーが実践したことではなかったかと思うのです。

理念を活用するリーダーのもとで育ったメンバーが、やがて自身がリーダーになったときに、自分も理念に基づいたリーダーシップを発揮する。そのようにウェイ・マネジメントが継承されていくことが、ひとつの理想型といえると思います。

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下平博文
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# by pdoneteork | 2019-01-15 10:00 | Comments(0)