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今回は、少し回り道をします。ここ何回か引用してきた書籍『経営戦略としての異文化適応力』に記された日本の国民文化の特徴を、さわりで押さえておきます。関心を持たれた方は、ぜひ本書にあたってみてください。

この本のベースになっているのが、ヘールト・ホフステード博士(オランダ1928‐)が開発した「6次元モデル」です。それは次のような評価軸からなり、それぞれの次元について、各国の文化を0から100の指数で表しています。

● 権力格差(小さい⇔大きい) Power Distance
階層を重視するのか、それとも平等を重視するのか。親と子、先生と生徒、上司と部下、自分より権力がある人との関係を、力の弱い人がどのようにとらえるのか。

 日本のスコアは54。世界のなかでも中間に位置しています。アジア地域では日本は最も権力格差の小さい国であり、日本より権力格差が小さい国々は、米国、英国などのアングロサクソン諸国、ドイツ、北欧諸国とイスラエルです。

● 集団主義⇔個人主義 Individualism
自分が属する内集団に依存し、その利益を尊重するのか、それとも独立し、個人の利益を優先するのか。

 日本のスコアは46。権力格差と同じように世界のなかで真ん中です。日本は、自分たちを集団主義と思い込みがちですが、それはアングロサクソン諸国、北欧諸国、ドイツ、フランスと比較してのことです。中国、東南アジア、中東、中南米諸国と比較すると、日本はかなり個人主義の強い国です。

● 女性性(生活の質)⇔男性性(達成) Masculinity
競争社会のなかで家族、友人、大事な人と一緒にいる時間を大切にするのか、それとも達成する、成功する、地位を得ることによって動機づけられるのか。

 米国・英国・中国・メキシコ・ドイツなどは男性性の傾向を持つ社会であり、目標を定め邁進することが評価されますが、日本はそうした国々のなかでも抜きんでて男性性の高い国(トップスコア95)です。日本の場合は、自らに課した目標に向かって「道を極めていく」という特徴が顕著です。

● 不確実性の回避(高い⇔低い) Uncertainty Avoidance
不確実なこと、曖昧なこと、知らないことを脅威と捉えるのか、それとも気にしないのか。

 日本のスコアは92で、最も高い国のひとつです。不確実性を回避したいという傾向の強い国では、予測可能性を高めれば不確実性を回避できると考えるため、多くの成文化された規則、制度があり、日々の生活のなかにも様々な慣習的な規則があります。なぜなら、人々が不安やストレスを感じやすく、それをできるだけ避けるために、ルール、仕組み、約束事を「感情的に」必要としているからです。

●  短期志向⇔長期志向 Short vs Long Term Orientation
将来・未来に対してどう考えるのか。

 日本のスコアは88。韓国・台湾・中国などと並んで最も長期志向の高い国のひとつです。

●  人生の楽しみ方(充足的⇔抑制的) Indulgence vs Restraint
人生を楽しみたい、あるいは楽をしたいという気持ちを抑制して悲観的に考えるのか、それともその気持を発散させ充足させ、ポジティブに考えるのか。

 日本のスコアは42。世界のほぼ平均値です。

国民文化については、多くの経営学者が計測を試み、いくつもの指標が発表されてきたましたが、膨大な調査データと統計分析により約40年前に世界で初めてスコア化したのがホフステード博士だということです。そのモデルは、アカデミアで繰り返し議論され、ときには批判されながらも常に異文化の議論の中心にあり、また博士自身の手によって何度かアップデートされ、論文の引用数はあのマルクスに次いで多いといいます。

こうした指標は、半端にまとめたものが一人歩きをすると俗論(ステレオタイプ)に流れやすいので、今回はほとんど加工をしないで書籍からそのまま引用しました。芸のないことですが、ご理解ください。

参照)本の要約サイトflierにリンクします
経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法
宮森千嘉子、宮林隆吉(日本能率協会マネジメントセンター)2019


下平博文
Philosophy Driven Organization Network 主催
shimodaira.hirofumi@PDONetwork.com



# by pdoneteork | 2019-04-16 10:00 | Comments(0)

それでは前回みてきた、「花王ウェイの『よきモノづくり』はきわめて日本的な価値観である」という仮説に立ったときに、わたしたちはどう振る舞えばよいのでしょうか。

あるいは、もっとマイルドに「大事なことは、あなたが生まれ育った場所が、あなたの基本的なモノの考え方や視点に影響を与えるという事実から目をそむけないことです」というホフステード博士のアドバイス(参照p.304)を受け入れるとすれば、どのようにしたらよいのでしょうか。このアドバイスは個人だけではなく、企業という組織体にもあてはまるとして、考えてみましょう。

まず、海外のメンバーが日本とは異なる文化的背景を背負っているということを意識して、この言葉が意味するコンセプトについて、ていねいにコミュニケーションすることを心がけることでしょう。

次に、具体的にどのような行動や判断が期待されているのか、できるだけ形式知(事実・具体性)ベースで共有することではないでしょうか。さいわい、花王ウェイの「よきモノづくり」は、3つのサブコンセプトで構成される構造体です。ちょっとわずらわしいかもしれませんが、ゆっくり読んでみてください。

よきモノづくり Yoki-Monozukuri
 ● 私たちは、消費者の心を打つ満足を実現するために、消費者のニーズを見極め、独創的なシーズと組み合わせて、革新的な商品とブランドを開発します。ニーズとシーズの融合
 ● 私たちは、よきモノづくりのために、全員、全部門の創造性と力を結集します。よきモノづくりの推進力は私たち一人ひとりの熱意であり、これこそが花王の強さの源です。個の力の結集
 ● 私たちは、よきモノづくりを通じて得た利益を、さらに価値ある商品とブランドの創造に投じます。このよきモノづくりのサイクルにより、消費者、社員、取引先、地域社会、株主を含む全てのステークホルダーの支持と信頼を得て、利益ある成長を達成します。よきモノづくりのサイクル


「ニーズとシーズの融合」の項目であれば、「どのように消費者のニーズを発掘するのか」「そもそも消費者とは誰か」「間接部門であれば、なにがニーズでシーズか」……といった具合に、海外のメンバーといっしょに考えるテーマは尽きません。

このブログではなんども繰り返してきましたが、わたしたちは理念に則ることで「筋のいい問いかけ」をいくらでもデザインすることができます。このメリットを活かします。

そして、このように理念を「問いかけ」として機能させれば、”Yoki-Monozukuri”が、言葉として意味がわからない(日本語だから海外の人には前提)ということさえ、大きな障害にはならないのではないでしょうか。

参照)
『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』
宮森千嘉子、宮林隆吉(日本能率協会マネジメントセンター)2019


下平博文
Philosophy Driven Organization Network 主催
shimodaira.hirofumi@PDONetwork.com


# by pdoneteork | 2019-04-09 10:00 | Comments(0)

前回から参照している『経営戦略としての異文化適応力 』では、日本の文化的特徴として、次のようにまとめています。本文をそのまま引用します。
 
 ● 男性性と不確実性の回避度が世界で際立って高いので、努力を厭わず、高い志を持って、より良い仕事を追求する
 ● あらゆるトラブル、不測の事態を予測しながら、丁寧に仕事をする
 ● 長期志向は、他から学ぶ姿勢をもたらし、近視眼的でなく物事を関連付けて俯瞰してみられるので、すり合わせて最適解を見出す
 ● 中庸な権力格差と集団・個人主義は、権力者に頼らず、現場、ミドルのパワーを最大限に引き出す力をもたらす

なんだかいいことばかりみたいですが、著者らはもちろんこうした日本の文化的特徴は、環境によって強みにも弱みにもなると断っています。

さて、こうした記述を踏まえて花王ウェイのValuesを改めてみてみましょう。

基本となる価値観 Values
 ● よきモノづくり Yoki-Monozukuri
 ● 絶えざる革新 Innovation
 ● 正道を歩む Integrity


なによりも「よきモノづくり」が、横文字でもそのまま “Yoki-Monozukuri”となっていることが特徴的ではないでしょうか。わたし自身が、そう決めたときの当事者の一人でした。

このときは「よきモノづくり」という日本語が最初にあって、それを「よい商品を開発する」とか、「生産する」とか、「提供する」とかいろいろな英語を当てはめていたのですが、どうもしっくりこない。

海外のメンバーも入れていろいろ意見を交わすなかで、ひとつ発見したのは、この言葉が表しているのは、決して物を作るという「行為」ではなく、物を作るという行為に込められた「気持ち」だということでした。そこが腑に落ちたところで、それではこの言葉をそのまま使おうという決断ができたように思います。

その代わり、日本語以外の言語では、下記のような説明をこの言葉のすぐ下につけました。ぜひサイトで確認をしてみてください。

We define "Yoki-Monozukuri" as "a strong commitment by all members to provide products and brands of excellent value for consumer satisfaction". (後略)

この"a strong commitment"という言葉に、「気持ち」であることが表現されています。

もういちど日本文化の特徴に戻り、ひとつ目の文章の後半の部分「努力を厭わず、高い志を持って、より良い仕事を追求する」を読むと、まさにここに「よきモノづくり」という言葉に込めた気持ちと共通するものがあると感じられます。

であれば、「よきモノづくり」が他の言語に移し替えることができなかったのは、それがきわめて日本的な価値観だったから、というなんとも平凡な仮説が立ちます。それはP&GのOur Valuesが、アメリカの国民文化を色濃く反映しているように感じられたのと相似ということができます。

しかし、当事者は、少なくともわたしは、あくまでもこれは企業文化をどう表現するのかという課題であって、国民文化というレベルまでさかのぼる可能性があるという認識はほとんどありませんでした。ですから、今回書籍で、冒頭に紹介した日本文化の分析を読んで、かなり虚を突かれた思いをしたのでした。

次回もこの話しを続けます。

参照)
『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』
宮森千嘉子、宮林隆吉(日本能率協会マネジメントセンター)2019


下平博文
Philosophy Driven Organization Network 主催
shimodaira.hirofumi@PDONetwork.com





# by pdoneteork | 2019-04-02 10:00 | Comments(0)

国や民族による文化については、扱いは慎重でありたいと思います。社会により異なる慣習があるのは事実ですが、人の心(考え方や価値観)はそう簡単には理解できないと考えるからです。

多文化研究の第一人者であるホフステード博士(オランダ1928‐)は、社会とそこに属する個人の関係をジグソーパズルとそのピースにたとえています。パズルにはひとつとして同じピースはありませんが、それが組み合わされると、確かにある絵柄が浮かび上がってきます。

博士は、世界の国民文化を6+αのメンタルイメージ(文化圏)に分けました。そのなかで、アメリカをふくむアングロサクソンの諸国は「コンテスト型」という文化圏に分類されます。この文化圏では「人や組織に競争の自由を与えれば、より良いことが起こる」という前提があり、自由な競争環境が何より重視されます。

ビジネスのキーワードは、達成志向、目標設定、勝ち負け、克服、キャリア、競争の報酬のボーナス等。マネジメントの基本は、目標設定と管理。

上司は、部下と目的(What)を合わせたら、やり方(How)は部下に任せます。問題が発生したら、相互の直接的なコミュニケーションを通じて解決します。アメリカで、もしくはアメリカ企業で働いた経験のある方であれば、同意していただける記述ではないでしょうか。

さて、そうした前提でP&GのOur Valuesを再度みてみるとどうでしょうか?このアングロサクソンの文化を濃厚に反映しているように思えないでしょうか。

共通する価値観 Our Values
 ● 誠実さ Integrity
 ● リーダーシップ Leadership
 ● オーナーシップ Ownership
 ● 勝利への情熱 Passion for winning
 ● 信頼 Trust

P&GのPVP

わたしたちには、P&Gはアメリカ企業というよりは、グローバル企業であるという認識があり、それゆえにその企業文化はコスモポリタンなものだという思い込みがありますが、その根っこはしっかりアメリカの国民文化に根ざしているのかもしれません。それでは、グローバルスタンダードといっているものは何か?という疑問がわいてきます。

ホフステード博士は、世界中の大学やビジネススクールで教えている経営理論は、主にアングロサクソンの学者が考え出したものであり、コンテスト型の文化圏では機能する。しかし、それがどこの国でも通用する普遍的な価値観だと思い込むと落とし穴がある、と指摘します。

とりわけ、リーダーシップや組織開発論といった人と組織に関わる理論の多くが、アメリカの大学やコンサルタントファームで開発されたものであることに注意をうながします。わたしたちは、そのことにもう少し意識的になったほうがよいのかもしれません。

企業文化と、国民文化の関わりについて、次回は、花王の例みていきたいと思います。

今回のホフステード博士の研究に関わる記述は、次の書籍に拠っています。
『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』
宮森千嘉子、宮林隆吉(日本能率協会マネジメントセンター)2019

下平博文
Philosophy Driven Organization Network 主催
shimodaira.hirofumi@PDONetwork.com



# by pdoneteork | 2019-03-26 10:00 | Comments(0)

今回は、花王とP&G2社のValues(価値観)の比較をすることにします。ちなみにレッスンの36では、両社の使命を比較しています。

前回まで参考にしてきた『資生堂グループ企業理念』では、Our MissionにOur Valuesが続いています。そこで、今回は同じく資生堂の理念を素材にValues(価値観)についてみていきたいと思っていたのですが、資生堂のコーポレートサイトから消えているのを発見しました。たぶん改定の予定があるのでしょう。それはそれで今後どのように変更するのか興味深いですが、いま素材として使うのは適切ではないと判断しました。

それでは、みていきましょう。


基本となる価値観 Values
 ● よきモノづくり Yoki-Monozukuri
 ● 絶えざる革新 Innovation
 ● 正道を歩む Integrity


共通する価値観 Our Values
 ● 誠実さ Integrity
 ● リーダーシップ Leadership
 ● オーナーシップ Ownership
 ● 勝利への情熱 Passion for winning
 ● 信頼 Trust

どうでしょうか、かなり興味深いと思いませんか?どんなことに気づきましたか?ワークショップであれば、ここはぜったいに参加者に意見を求めるところでしょう。

最近は、このValuesというまとめ方をする理念が増えているようです。Missionが抽象度が高く、各社かなり似通っているのに対して、Valuesの項目の絞り込み方や表現は各社の個性が端的に現れているように思います。

花王とP&Gは、規模こそ異なりますが、事業領域の重なりの大きい両社です。そのValuesの違いは、単純に会社の個性の違いというだけではなく、日本とアメリカの社会の違いを反映している感じさえします。

花王ウェイの「基本となる価値観」の定義は、「私たちは何を大切に考えるのか(What we believe in)」ですが、裏を返せば、この価値観にもとることはしない、という決意が含意されていると考えるべきです。

P&GはValuesについて次のように説明しています。「P&Gは、社員とその生き方を導く価値観(バリュー)とから成ります。 私たちは、世界中で最も優秀な人材を引きつけ、採用します。 私たちは、組織の構築を内部からの昇進によって行い、個々人の業績のみに基づき社員を昇進させ、報奨します。 私たちは、社員が常に会社にとって最も重要な資産であるという信念に基づき、行動します」。

かなり強い口調で、Valuesを共有できない社員はP&Gの社員に非ず、といっています。日本のサイトではなぜか省略されているのですが、本社のサイトをみるとそれぞれの項目の下にかなり細かい行動を定めた文章が続いています。

この他にも、論点はいっぱいありそうですね。次回に続きます。

下平博文
Philosophy Driven Organization Network 主催
shimodaira.hirofumi@PDONetwork.com




# by pdoneteork | 2019-03-19 10:00 | Comments(0)