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それでは、新しくなった花王ウェイの4つ目のレイヤー “Principles”「行動原則」をみていきましょう。Principlesの定義は、“How we behave” です。

We care for people & the planet      共生視点  
We think from the Genba         現場起点
We trust, respect, & need each other   個の尊重と力の結集
We act with courag           果敢に挑む

改定前のPrinciplesは、

Consumer driven     消費者起点
Genba-ism        現場主義
Respect & Teamwork   個の尊重とチームワーク
Global perspective     グローバル視点

基本的な構成は継承するものの、内容はかなり変化しています。1つ目のPrincipleは、視点が大きく広がっています。また、最後のPrincipleは新しいものに置き換わっています。また、”care for”、”think”、”trust, respect, & need”、”act”といった動詞が使われており、“How we behave” という定義にふさわしいものになっていることも特長です。では、ひとつひとつみていきましょう。まず、最初のPrincipleから。

(タイトル)
We care for people & the planet
共生視点

(リード)
We believe that people and the planet are inextricably linked. We know we must consider this deep relationship carefully and holistically, and want our actions to result in a positive impact on both people (our consumers, our employees, and our business partners) AND the planet.
私たちは、人と地球は切り離せないものであると信じています。この密接な関係を、細心の注意を払いながら包括的に考えなければなりません。また、私たちのどんな行動も、人(生活者、社員、ビジネスパートナー)と地球すべてに、よい影響をもたらさなければなりません。

(項目)
Everything we do starts with the consumer. We develop products, brands, technologies, and solutions that enrich lives by staying close to the people we serve.
We stay close to the consumer
すべての仕事の起点は生活者です。私たちは、一人ひとりを深く理解することによって、生活を豊かにする製品、ブランド、技術、ソリューションを開発します。
生活者理解

Our employees are our greatest strength. We create inclusive workplaces where every person can develop to their potential as a professional and a human being.
Our employees are our greatest strength
私たちの最大の強みは、社員です。私たちは、誰もがプロフェッショナルとして、また人間として、自身が持つ可能性を最大限に活かした成長ができるインクルーシブな職場を創ります。
社員は最大の強み

We respect and value our customers, suppliers, and business partners. We build strong relationships based on shared values and trust, working together for mutual success.
We build strong partnerships
私たちは、顧客、サプライヤー、ビジネスパートナーを尊重します。共通の価値観と信頼に基づく強固な関係を構築し、互いの成功のために協力して働きます。
強いパートナーシップ

Recognizing that all people live on a shared planet that cannot directly voice its needs, we commit to equally taking both people's and the planet's perspectives into all our decision-making.
We take a holistic perspective
すべての人々が暮らすこの地球は、求めることを直接声に出して訴えることができません。私たちは常に、人と地球、両方の声に平等に耳を傾け、意思決定します。
人と地球の視点

一般的に、「共生の視点からみたときの〇〇」といった言い回しは目にしますが、「共生視点」という言葉は見かけません。花王のオリジナルと考えていいでしょう。

改定前、”Consumer driven” の項目が、

The Consumer is Our First Priority  消費者第一
Be Close to the Consumer      消費者理解
Communicate with the Consumer   消費者との交流

と、もっぱら消費者だったのに対して、生活者、社員、ビジネスパートナー、そして地球と対象が広がっています。これは、実に大きな変化といえると思います。

そして、“Mission”「使命」のキーワードである “a Kirei life—a cleaner, more beautiful, and healthier life for all people and the planet”「Kirei Life~すべての人と地球にとってより清潔で美しく健やかな暮らし方~」を達成するための行動原則がここに述べられているといえます。その意味では、今回の花王ウェイの刷新において、重要な変更点のひとつといえるでしょう。

改定前の「消費者」が頭に入っている(こびりついている)わたしにとっては、ここで社員が出てくるのは違和感がありましたが、リードに登場する生活者、社員、ビジネスパートナー、地球それぞれに1項目が当てられていると理解すれば、形式的には論理的に構成されていることがわかります。

ただし、ここに社員を含めることがほんとうにいいことなのだろうか、意味があることなのだろうか、という内容についての疑問は残ります。社員との共生という意味がすんなり頭に入ってきません。社外のステークホルダーに絞ったほうがシンプルではなかったでしょうか。これからも社員に言及できる箇所はたくさんあるのに、それでもあえてここに社員を入れたのはどうしてなのか、さらにいえば今回 “shareholder” 株主への言及がないのはどうしてなのか、社内ではどのような議論があったのでしょうか。とても興味があります。

このブログは、毎週火曜日+αで更新しています。

下平博文
Philosophy Driven Organization Network 主催
shimodaira.hirofumi@PDONetwork.com



# by pdoneteork | 2021-11-09 10:00 | Comments(0)

それでは、“values”「基本となる価値観」の3つ目をみていきましょう。

(タイトル)
Innovation for today & tomorrow
絶えざる革新

(リード)
Innovation is a way of thinking. Our openness to new ideas has advanced our business since the days of our founder. Whether it is steady improvements, breakthrough technologies, or new ways of doing business and communicating the uniqueness of what we offer, we are committed to growth and change.
「革新」とは、発想です。花王は創業以来、新しいアイデアを積極的に取り入れることで発展してきました。着実な改善、画期的な技術、事業の新しい進め方、独自性を伝える斬新な手法など、あらゆる場面で絶えざる成長と変革に全力を注ぎます。

(項目)
We do not wait for groundbreaking innovation. We create distinctiveness in everything we do. In what we design, how we communicate, how we market, and all the ways we do business – we strive to be unique.
Create uniqueness
画期的な革新は待つものではありません。私たちが行なうすべてが、卓越したものでなければなりません。企画からコミュニケーション、販売方法、ビジネスの行ない方に至るまで、私たちは独自性を追求します。
独自性の追求

We serve people and societies that are constantly changing. We stay ahead of change by continuously improving and innovating what we make and how we work.
Stay ahead of change
私たちは、変化していく人々や社会のために力を尽くします。成果とプロセスを、改善、革新し続けることによって変化を先取りします。
変化の先取り

We are curious and inventive, always open to new ideas and eager to solve new challenges.
Stay curious
私たちは、探求心旺盛で発想力に富み、常に新しいアイデアを受け入れ、新たな課題に自ら進んで取り組みます。
あくなき探求心

Innovation is hard. When we struggle, we remember that hard times build resilience and accelerate individual and organizational growth.
Difficulties are opportunities
革新は困難を伴います。苦しい時には、試練は飛躍する力を与え、個人と組織を成長させるものと、私たちは考えます。
危機をチャンスに

内容・表現ともよくできていると思います。“Innovation is a way of thinking” や、“ We do not wait for groundbreaking innovation” 、”Innovation is hard” といったテーゼは少し押しつけがましいかもしれませんね。わたしが社員であれば、反発していたと思います。

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下平博文
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# by pdoneteork | 2021-11-02 10:00 | Comments(0)

では、“values” 「基本となる価値観」の2つ目をみていきましょう。

(タイトル)
Yoki-Monozukuri in plan & action
よきモノづくり

(リード)
In Japanese, "yoki" means good or excellent, and "monozukuri" means making or craftsmanship. For us, Yoki-Monozukuri means an excellent creation process that is good for everyone involved and enriches the lives of consumers and customers.
「よきモノづくり」とは、関わったすべての人がよいと感じ、かつ、生活者・顧客の生活を豊かにする、優れた創造のプロセスを意味します。

(項目)
We develop products, brands, technologies, and solutions that uniquely answer the needs of individuals, society, and the planet, today and tomorrow.
Answering needs
私たちは、人、社会、そして地球の、現在および未来のニーズに、独自の方法で応える製品、ブランド、技術、ソリューションを開発します。
ニーズに応える

We excel at Yoki-Monozukuri because we unite the creativity and energy of every employee and team in our organization. Across all job roles and functions at Kao, we passionately commit to excellence in what we create.
Uniting abilities
私たちは、すべての社員とチームの創造力と活力を結集することで、卓越したよきモノづくりをめざします。あらゆる職務と部門において、卓越した成果を出すことに情熱を傾けます。
個の力の結集

We re-invest our profit and energy into serving individuals, society, and the planet with respect. This earns trust and ensures our sustainable growth.
Yoki-Monozukuri growth cycle
私たちは、人、社会、地球すべてに敬意をもって貢献するために、利益と活力の再投資を続けます。これによって信頼が生まれ、持続可能な成長を確かなものにします。
よきモノづくりの成長サイクル

改定前のリードは英語のみで、それは次のようなものでした。

(改定前リード)
We define "Yoki-Monozukuri" as "a strong commitment by all members to provide products and brands of excellent value for consumer satisfaction". It consists of the following core concepts, which distinguishes us from all others. In Japanese, "Yoki" literally means "good/excellent", "Monozukuri" means "development/manufacturing of products".

全体の主旨としては、ほぼ同一とみえるかもしれません。しかし、前任者の視点からは決定的に違っています。それは、Yoki-Monozukuriの定義が、“commitment” から “process” に替わった点です。

2004年に花王ウェイを発行するにあたり、「よきモノづくり」をどう英語に訳したものか、メンバーでさまざまに試行錯誤をしました。しかしどう訳しても、この日本語のニュアンスを置き換えることは難しいと感じていました。変化があったのは、この言葉がまさにプロセスやメソッドといった外在的なものではなく、心意気やスピリットといった内在的なものであるということに気づいた瞬間でした。まさに、価値観でありコンセプトであったわけです。

コンセプトはコンセプトなのだから、他の言葉に置き換えがたい。であれば、これは日本語のままにして、その代わりにリードで解説をつけようという結論にたどり着きました。Yoki-Monozukuriは、行為ではなく、気持ちのことである、という振り返って考えれば自明ともいえることを発見したときの、目の前が開けたような気持ちの余韻がいまでもこころの片隅に残っています。ですから、今回「プロセス」と定義されたのを見たときは、複雑な思いがよぎりました。

しかしいっぽうで、これも元インサイダーばりばりのコメントですが、Yoki-Monozukuriはグループの共通の価値観として定着したという手応えをすでに感じていました。ですから、次のステップとして今回のような定義もあり得るのかもしれないとも感じています。

なお、タイトルについては、前回と同じように “in plan & action” はリードで処理をすれば十分ではないかと思います。全体的に、言葉遣いがグラマラスになっていますね。 

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下平博文
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# by pdoneteork | 2021-10-26 10:00 | Comments(0)

それでは、新しくなった花王ウェイの3つ目のレイヤー、“values”「基本となる価値観」についてみていきましょう。“values” の定義は “What we believe in” です。

Integrity as the only choice     正道を歩む
Yoki-Monozukuri in plan & action  よきモノづくり
Innovation for today & tomorrow  絶えざる革新

改定前のvaluesは、

Yoki-Monozukuri  よきモノづくり
Innovation     絶えざる革新
Integrity       正道を歩む

まず、順番が変わったことに気づくのではないでしょうか。その意味は、決して小さくはないと思います。レッスン179で、今回の花王ウェイの改定は、化学をベースとしたいち消費財メーカーから、もっと大きく世界のサステナビリティに貢献する企業へ、という「アイデンティティの再構築」を意図したものではないかと推察しましたが、同じ意図がこの順番の変更にも表れているように思います。

そしてフレーズが長く雄弁になりましたね。これは良いことなのかそうではないのか、判断は難しいですね。エッジは立ってきましたが、耐用年数が短くなるという可能性があります。

また、これは非常に微妙、かつ本質的なことだと思いますが、企業理念においては表現が洗練されて前面出てくるほど、自分の言葉としてidentfyしにくくなるという傾向はあると思います。わたしはそうした観点から、理念の言葉遣いは雄弁よりは朴訥を採りたいと思います。

それではひとつずつみていきます。なお、この作業はきわめて詳細なので、関心がもてない方はしばらくは読み飛ばしてください。

(タイトル)
Integrity as the only choice
正道を歩む

(リード)
The Japanese word we use for "integrity," seido wo ayumu, literally means "walk the right path." This unique phrase comes from our founder, Tomiro Nagase. He taught us that good fortune is given only to those who work diligently and behave with integrity. We will always choose the path of integrity, even when it is not easy.
「正道を歩む」は、創業者・長瀬富郎の言葉を源としています。彼は、勤勉に働き誠実に生きる人々のみが幸運をつかむことができると考えました。私たちはたとえ困難であろうとも、常に正しい道を選択します。

(項目)
We treat everyone with respect, fairness, and empathy and work with sincerity of purpose. This brings out the best in us as people and as one Kao.
Respect, fairness, empathy, and purpose
私たちは、すべての人に敬意、公平さ、共感をもって接し、使命感を抱いて誠実に仕事に取り組みます。これにより、人として、志を共にする仲間が集う花王として、最も力を発揮することができます。
敬意、公平、共感、高い志

We do what is right, not what is easy. Lawful and ethical behavior is the foundation of the way we do business.
Lawful and ethical business
私たちは、易しいことではなく、正しいことを行ないます。合法的で倫理的なふるまいが、私たちのビジネスの基本です。
法と倫理の遵守

We take our corporate responsibilities seriously, creating safe, ethical, and high-quality products, brands, technologies, and solutions that serve society and protect our planet.
Corporate responsibility
私たちは、企業の責任を真摯に受け止め、社会に役立ち地球を守ることのできる、安全でエシカルかつ高品質な製品、ブランド、技術、ソリューションを創造します。
社会的責任の遂行

改定前の花王ウェイでは、リードがあったのは、“Yoki-Monozukuri” と “Genba-ism” という日本語についての補足が必要なものだけでしたが、今回の改定により、3つのvaluesすべてにリードがつきました。

さて、“Integrity as the only choice” のリードですが、創業者の精神から起こしたのはとてもいいと思います。どのような企業でも、創業の言葉や志は、国内外を問わずそこで働くメンバーの大きな精神的な拠り所になります。ただ、これは元インサイダーならではのコメントですが、日本語のリードでは、なぜ創業者の言い回しそのものを引用しなかったのだろうかと思います。

各項目については、どれもが非常に普遍的な内容だと思います。とはいえ、3つ目の ”Corporate responsibility” の内容が、2004年に花王ウェイが策定されたときのCSR(Corporate Social Responsibility)のパラダイムのままなのが、全体の整合性を考えたときどうなのだろうかという疑問が湧きます。もちろんこの項目も欠かせないものだと思うので、事業活動と社会貢献の関わりに言及したCSV(Creating Shared Value)的な1項目を新たに加えてもよかったのではないかと思います。この件については、全体を通して見てから、もう一度考えることにしましょう。

そして、話を蒸し返すようですが、タイトルの “Integrity as the only choice” は、やはり長いですね。引用すると特にそう感じます。表現として捨てがたいということであれば、リードの冒頭や末尾にフレーズごと追加すれば十分ではなかったでしょうか。 

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下平博文
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# by pdoneteork | 2021-10-19 10:00 | Comments(0)

新しくなった花王ウェイについて考察していたところ、花王株式会社のコーポレートスローガンが新しくなったという発表がありました(2021年10月1日)。新しいスローガンは「きれいを こころに 未来に」です。

“きれい”という言葉について、前々回、果たして “Mission”「使命(Why we exist)」にふさわしいかどうかという検討をしました。

企業理念(Corporate Philosophy)と、コーポレートスローガンの関係ですが、前者が企業のアイデンティなのに対して、後者は企業のプロモーションと位置づけることができるでしょう。組織と戦略の違いという言い方もできます。

そうした観点からみると、「きれいを こころに 未来に」は、花王の中長期的な企業戦略を的確に体現しており、よく機能するのではないかと思います。プレスリリースの言い回しを借りれば、この言葉は、“花王が社会に提供すべき具体的な価値” を端的に表現していると思います。リリースの文章を少し引用しましょう。

地球をきれいに保つこと、危害をきれいに消し去り生命を守ること、みんなが笑顔で暮らせるきれいな生活を創ることで、世界中の人々のこころ豊かな未来に貢献していく ― 花王は、このコーポレートスローガン「きれいを こころに 未来に」を軸に、さらに一段高い社会への貢献を行ない、豊かな共生世界の実現をめざします。

もし、花王がこの言葉をこのような社会性の高い文脈で使い続けるとしたら、もしかしたら日本語の “きれい” という言葉の語感を変えていく可能性さえあるかもしれません。

それでは、英文ではどうかと "Kirei—Making Life Beautiful." となっています。“きれい” の説明になっているのが惜しい感じがします。たとえば、"Kirei for the people now and the future. " のように、"Kirei" を投げ出したスローガンにしても面白かったのかもしれないと思います。あるいは、ある時点でそのようなスタイルに変えるという目論見があるのかもしれません。まったく、無責任なことを言っています。

同時に、コーポレートロゴを変更し、新たにキービジュアルを導入したようですが、シンボルマークの扱いもふくめて、かなり複雑ですね。どのように使い分けていくのか、いまのところ外部からはよく見えません。かなりの戦略性が求められるのではないでしょうか。ハートマークは、いまさらいち企業のキービジュアルとなるのか疑問です。

組織と戦略というフレームワークは、『組織は変われるかー経営トップから始まる「組織開発」』加藤雅則(英治出版)に拠っています。要約にリンクをしておきます。

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# by pdoneteork | 2021-10-12 10:00 | Comments(0)